財閥御曹司は最愛の君と極上の愛を奏でる

「俺は三宅製薬の元社員たちがくいっぱぐれることがなくて、自分の家族が幸せならそれでいいんです。余計な波風立てる必要ありませんよ。四季杜財閥と違って、こちとら小市民なもんで」
「父上の会社を取り戻さなくていいのかい?」
「響さんの面倒をちまちま見てる方が、気が楽でいいです。それに、四季杜の監視の目が光っている内は、元社員達に迂闊に手を出したりしないでしょう?共存の道を模索していた親父なら、文句言いませんよ」

 試合に負けて、勝負に勝つ。
 言うが易し、行うが難し。
 自分の感情を押し殺し、大多数の幸福を迷いなく選び取れるのは、やはり経営者の器に違いない。
 ……本人は否定したがるだろうけれど。

「はい、三宅です」

 執務室に着信音が鳴り響くと、律は話を中断し、素早くスマホを耳に当てた。
 何往復かやりとりした末に通話を終えると、改めて響に向き直る。

「総帥から御命令です。明後日、衣都と一緒に屋敷まで来るようにと」
「……わかった」

 秋雪の動きは響の予想よりも随分と遅かった。

(とうとう来たか)

 ようやく手に入れた最愛の女性との生活を守るためなら、響はどんなことでも厭わないつもりだった。

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