可憐なオオカミくん
3


 ♢

 
 昨日は、ふらりと倒れてしまってから、心配性のお母さんが迎えに来てくれたのでそのまま早退をした。

 入学初日にやらかしてしまった。

 ただでさえ、違う土地から引っ越してきて友達がいないのに。


 沈むわたしの心とは正反対のように、空は雲ひとつなく青空が広がっていた。


 肩をすくめて、トボトボと家を出た。
 社宅の駐車場に植えられている桜の木を見上げる。
 
 桜の花びらも散り始めていた。ひらりひらりと散っていく花びらをみながら、大きなため息が自然と漏れた。これからの学校生活が不安すぎる。
 


「一華! おはよー」

「お、おはよ……」

 葵くんは、朝からかわいい。
 口角を上げてニコーっと人懐こい笑みを浮かべている。
 
 爽やかな声で登場した葵くんの可愛さに眩しくて目が霞む。

 わたしなんて、寝起きでいつもより余計に顔がボヤっとしているというのに。

 同じ色の紺色のブレザーに身を包んでいる。違うことは、葵くんはリボンじゃなくてネクタイをしていること。スカートではなく、ズボンを履いていること。

 当たり前のことだけど、その事実が葵くんを男と強調しているようで心が痛かった。


 葵くんは今日も可愛い。とびきり可愛い。
 だけど、男子の制服を着ていると、どこからどう見ても男だ。顔は女の子みたいに可愛いのだけれど、やっぱり男だと実感させられてしまう。

 脳が葵くんを男だと認めると、急に緊張してきた。目を合わせられなくて、ばっと目を逸らしてしまう。


「一華?」

「ご、ごめん。制服着てるとやっぱり男だなーって」

「……」

「だ、だ。大丈夫。ネクタイとズボンを見ないようにするから。ほら、こうやって顔だけ見てれば、葵くんの顔は可愛いから……女の子に……」


 見えない。
 じーっと顔を見つめてみるも、男の子にしか見えない。昨日までは、女の子だと信じて疑わなかったのに。

 どうしたって、男にしか見えない。

 ドキドキ。心臓の鼓動が速くなる。


「ご、ごめんなさい。やっぱり……無理かも――!」



 言葉を残してその場から逃げた。
 だって、男だと認めたら……なんだか、急にかっこよく見えてきちゃった。

 男子をかっこいいと思ったことなんて、一度もない。

 友達になってくれるって言ったのに、こんな邪な感情を芽生えさせるなんて。
 ダメだ、ダメだ。

 頭を左右にぶんぶんと大きく振った。


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