可憐なオオカミくん


 桜の花びらが風に乗ってひらりと落ちてきた。

 
 わたしの育った町は栄えているとは呼べない小さな町。お父さんの急な転勤で、隣の隣の市へと引っ越すことになった。


 新しい住まいの社宅には大きな桜の木が立ってた。桜の花びらが風に乗せられるたびに甘く上品な香りが鼻に残る。淡いピンクに染まった桜は綺麗でだいすきだ。

 なのに、私の心はげんなりしている。

 以前の町は小さな町だった。
 行く予定だった高校には、同じ中学の過半数が通うことになっていて、不安もなかった。

 なのに……。
 急遽、引っ越すことになってしまい、春から通う高校には友達が一人もいない。近所にも知り合いがいない。

 人見知りなわたしにとっては、げんなりするには十分すぎる理由だった。

 ――それと、もうひとつ。

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