可憐なオオカミくん

 あれ。

 あれ。

 あれ。

 視線の先に違和感がある。

 あれ。おかしいな。
 目を擦ってもう一度視線を葵ちゃんに向けた。

 リボンじゃない。
 ネクタイをしている。

 女子はみんなリボンのはず。

 あー。あれかな。彼氏のネクタイをしてるのかな。
 淡い期待を込めて、ちらりと視線を足元に落とすと、全て打ち砕かれた。
 
 ズボンを履いている!
 葵ちゃんが、ズボンを履いている――!


 確かめるように、足先から顔まで視線でなぞる。

 え。え――!

 葵ちゃん。
 ま、ま、まさか。


「お、お、おとこ?!」

「あ、やっと気づいた? だますつもりはなかったんだけど。なんか勝手に女だと思われてたし。男恐怖症って聞いたら、益々言えなくてさ……」

 葵ちゃんの声がどんどん遠くに感じる。
 葵ちゃん。いや、葵くん。

 男だったなんて。
 いや、嘘だよ。こんなに可愛い顔の男の子が、この世にいるはずないよ。
 わたしの100倍可愛いのに。
 声だって低くなくて、こんなにも優しい声なのに。


 周りの音は遮断されたように、頭に入ってこない。
 私の意識は――ぷつりと消えた。
 
 
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