クセのある御曹司を助けたら「運命だ」とか言われました。



 そして、「それ、俺にとっては偏見ですー、極端に言えば俺は十円ガムや駄菓子も好んで食べまーす」と、『社長だからって、しょっちゅう高いもんばっか食べてるわけじゃない』と、私に反論してきた。


「……ス、スミマセン」


 明るく否定してくれた住吉さんの言葉をどう受け取っていいか分からずに、しんみりとした雰囲気で謝る。そんな私に住吉さんは「羽賀さん、ごめん! 俺全然怒ってないから」と全否定した。


「でも、羽賀さん家の和食屋さんで食べたいのは本音。俺はただの客だから案内してくれる?」


 少し話しただけでも住吉さんの人柄が伝わってくる。住吉さんはその場の空気に敏感で人のことを良く見れる人だ。こんな人の元で働ける社員さん達は幸せだろうな。切り替えて、お客様である住吉さんを私の家の和食屋さんに案内する。


 昼時だというのに、今日もガラガラだ……正直に言ってしまえばこんな過疎っている状況、住吉さんに知られたくなかった。


「いらっしゃいませー。お好きな席へどうぞー」

 厨房にいる父は、お客様が入店してきたことの嬉しさを、二段階ほど高い声のトーンで表現した。


 住吉さんは窓側の日当たりがいい席に座る。そして、


「どれがオススメ? 羽賀さんがオススメしてるの全部ちょうだい」

 無茶苦茶なメニューの頼み方をする住吉さんに硬直してしまった。


「ぜ、全部!? そんなに食べ切れますか?」

「やっぱり無理かも。羽賀さんも一緒に半分ずつ食べようよ。羽賀さんのお仕事は今日は俺を接待すること! 他はお休み!」


 私もそんなに大食いじゃないんだけどと思いつつ、住吉さんの言葉に甘えて隣に座らせて貰った。
 お母さんとお父さんはお客さんといえど、私が異性を連れてきたことは嬉しかったようで、注文した料理を全てテーブルに並べ終えると、必要以上に住吉さんに食いついた。


「住吉さんは私の働いてた病院に一時期入院してたの。偶然道端で再会してうちの店でお昼を食べたいって来てくれたの」


 住吉さんの紹介を軽く終えた私に向かって、父と母は大きく頷いた。


 「彼女はいらっしゃるの?」など、お節介でしかないそ質問を住吉さんに投げかける。それでも住吉さんは父と母の質問に一つ一つ丁寧に答えてくれていた。

 住吉さんは今も彼女がいないらしい。


 「娘なんてどう!?」と、余計なことを言うお母さんの肩を軽く叩く。


「もう、やめてよ! うちがそういう状況じゃないのわかってるでしょ!」


 そう言うと、母は眉を下げ表情を曇らせる。


「……そういう状況じゃないって?」


 私達の会話を横で聞いていた住吉さんは、食い気味に質問してきた。


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