財閥御曹司に仕掛けられたのは、甘すぎる罠でした。

7 行き止まりの恋心

 幸せな時間は長くは続かない。
 シンデレラだって、12時の鐘が鳴ったら魔法は解けてしまった。
 私はダンスを踊った後、悠賀様に解放された。

「終業時間だ。残業してくれて、ありがとう」

 悠賀様はパーティー会場から私を連れ出し、地下に戻ってそう告げる。
 それから優しい笑みを一度向けると、踵を返して行ってしまった。

 そうか、これは仕事――。

 舞い上がってしまった自分が恥ずかしい。

 永遠の幸せなど存在しない。
 幼少期に、それを十分に実感していたはずなのに。

 そもそも悠賀様と私は、釣り合うはずがない。
 たとえ自分が、立花家の人間ではなかったとしても、私は一介の清掃員。
 悠賀様は雇用主であり桜堂家の御曹司なのだ。

 ドレスを脱ぎ、私服に着替える。
 寮への帰路をとぼとぼと歩きながら、私は何度もため息をこぼしていた。

 ――どうして悠賀様は、私をパートナーなんかに選んだのだろう?

 桜堂家の御曹司である悠賀様。
 パーティーのパートナーになりたい人など、山のようにいるだろう。
 なのに、なぜ私だったのだろう。

 悠賀様の気持ちが分からない。

 ――あんな雲の上の人の気持ちを分かりたいなんて、無理な願いなのかもしれない。

 私は寮についてからも、部屋についてからも、悩みため息をこぼす。
 いつの間にか朝が来ていた。

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