財閥御曹司に仕掛けられたのは、甘すぎる罠でした。
 ビルの下に控えていた車に乗り込み、羽田空港へやってきた。
 もちろん、今は悠賀様と二人だ。お見合い相手とは、ビルの下で別れた。

 旅客機が行きかう窓の外を見て、無意識に身体が強張った。

「飛行機に、乗るのですか……?」

「ああ」

 念のため聞いたが、返ってきた回答に落胆した。

 悠賀様は、私を立花家から解放しようとしてくださっている。
 なのに、飛行機が怖いなんて――。

 どうしても思い出してしまう、あの日のニュース映像。
 燃えていく飛行機の機体。真っ赤に染まった空、黒い煙。

 オーストラリアからこちらへ来たときには、私も死んでしまえばいいと思っていた。

 けれど今は、飛行機が怖い。
 きっとこんなに怖いのは、隣にいるのが私を幸せにしてくれた人だから。
 私を助けてくれた悠賀様と、もう少しだけでいい、隣にいたいという、贅沢な願いだ。

 悠賀様は固まってしまった私の身体から一度手を離し、代わりに私と手を繋いでくれた。

「大丈夫。僕がそばにいる」

 その言葉と、彼の大きな手から伝わる体温で、身体の強張りがいくらか解けてゆく。

「ありがとうございます。……悠賀様は、お優しいですね」

 そう言って、一歩、また一歩踏み出す。
 悠賀様は私に合わせて、ゆっくりと進んでくれた。

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