財閥御曹司に仕掛けられたのは、甘すぎる罠でした。

11 想い出の歌を

 私たちを乗せたジェット機は無事、ブリスベン空港に到着した。
 
 懐かしい亜熱帯の空気を、思い切り吸い込む。
 それにしても、暑い。

 着の身着のままで来てしまったから、私はまだ振袖のまま。
 南半球は、夏真っ盛りである。

「まずは着替えようか。この格好じゃ、僕たちは異様だからね」

 真夏のオーストラリアに、スーツと振袖。
 悠賀様は私の手を引き、近くのブティックへと向かった。

 *

 服は悠賀様が選んでくれた。
 互いに着替え、空港のロビーに戻る。

「速報です!」

 どこからか、聞こえてきた日本語。
 日本のニュースが、大型ヴィジョンで流れている。

「――これにより立花財閥は実質解体され、そのほとんどの系列会社が桜堂財閥に買収される見込みです。……」

 思わず食い入るように見つめてしまう。

「気になる?」

 背後から声をかけられ、ぴくりと身体が震えた。
 振り返り、小さくこくりと頷いた。
 悠賀様は笑って、近くのベンチに腰を下ろすと、ことの顛末を話してくれた。

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