働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~

「……みんなの前で味見してもらいましょう」

 ブランシュは、使用人にオレールを呼びに行かせた。
 しばらくすると、慌てた様子でオレールが厨房に入ってくる。

「ブランシュ。なにか用でも……」
「オレール様、味見をしてほしいのです。イノシシ料理がこの土地で受け入れてもらえるかどうか、領主として判断していただきたいわ」

 ずいと差し出されたお椀を、オレールはぎょっとしたように見つめる。
 オレールはそもそも表情の変化が乏しい。これでは、人から誤解されるのも仕方ないかもしれない。

「これが猪肉料理か」
「これがダヤン領の新名物になるかどうか、判断してほしいのです」
「……わかった」

 オレールはごくりと唾を飲み込み、汁を飲み込む。
 彼のやや釣り目の瞳が、驚きと共に開かれた。

「……うまい!」

 自然に、口がほころんでいた。この表情を見たかったのだと、ブランシュは思う。

「いまのところ、この国で猪肉を食用にしているところはほかにありません。私は、これを観光の目玉としたらいいと思っています。どうですか? 領の復興のため、考えてみてくれませんか」
「観光……?」
「ええ。復興させるには、人を呼び込まないといけません。整備するべきところも多いでしょうが、まずは領内にお金が落ちてこないことには、始まりませんもの」

 オレールはしばらくじっとブランシュを見ていた。そしてフッと力を抜くと、はにかんだように微笑む。それは、ブランシュだけでなく見る者すべてを驚かせた。

「驚いたな。……君はやはり聖女だ。領民を救いたいと願い、私には思いつかないような案を次々とだしてくれる」
「オレール様」
「ありがとう、ブランシュ。この料理にかけてみたいと思う」
(ああやっぱり……この方はいい人だわ)

 荒唐無稽な提案も、きちんと聞いてくれる。どうして彼が自分に領主は務まらないと思うのか、ブランシュにはさっぱりわからない。
 だけど、一緒に暮らしていくことで、彼が自信を持てるようになってくれればいいなと思う。
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