働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 料理店の店員は、料理人がふたりと配膳メイドが五人だ。

「お客様、どう?」

 祈るような気持ちで聞くと、メイドは少し困ったような表情だ。

「ちらほら……ですね」
「そう」

 店内を覗くと確かに客数は少ない。現在昼の十一時。まだ昼食には早い時間ではあるが、新店の開店という点で考えれば少ない感じがする。

「とりあえず、今日来てくれた人に満足してもらえるように努めましょう?」

 ブランシュはそう言うと、自ら接客を名乗り出た。

「いらっしゃいませ」

 明るい声と笑顔に、客はほっとしたように顔をほころばせる。

「お姉さん、俺、イノシシ肉って初めて食べるんだけど、どれがおすすめ?」
「そうですね。こちらの丼セットがお得になっていますよ」

 屈託なく話すブランシュの姿を見て、配膳メイドも顔を見合わせ頷き合う。

「私たちも、しっかりしなくちゃ」
《仕方ないなー。僕も手伝ってあげるよ》

 ルネまでが、表に出てにゃーにゃ―客引きをしてくれる。

 料理を食べた客は、最初は怪訝そうだったが、「うまい」と声を上げてくれた。
 やはり、庶民向けに丼メニューをメインにしたのは正解だったようだ。

 その後は、最初のお客が呼びかけてくれたこともあり、客は順調に入っていった。
 途中、オレールがやって来て、その繁盛具合に驚いていた。

「すみません。オレール様、もう少し後で……」
「どこが大変だ?」
「え?」
「どこを手伝えばいいと聞いている」

 上着を脱いで、腕まくりをして、オレールはさも当然というようにそう言った。
 ブランシュも驚いたが、使用人たちはもっと驚いたようだ。

「そんな、領主様に手伝っていただくなんて」
「これはうちの事業だろう。人出が足りないなら、誰であろうと動くべきだ」

 それは、騎士だったことのあるオレールだからこそ、出る言葉だろう。

「では、茶碗を洗っていただけますか?」

 ブランシュが挑むような気持で言えば、オレールは不敵にほほ笑み「ああ」と頷く。
──その、清々しそうな表情が、ストレートにブランシュの胸に突き刺さる。

(……っ。かっこいい!)

 胸がドキドキしていた。まさかこんなタイミングで、いい笑顔を見られるなんて思わなかった。
 そして、どこか吹っ切れたような彼の笑顔は、なんだかすごく、眩しいのだ。
< 76 / 122 >

この作品をシェア

pagetop