働きすぎのお人よし聖女ですが、無口な辺境伯に嫁いだらまさかの溺愛が待っていました~なぜか過保護なもふもふにも守られています~
 そして午後、にぎわう神殿からブランシュを連れ出し、オレールは祭りでにぎわう町を散策した。どこに行っても、オレールとブランシュは人気者だ。

「あっ、領主様」
「ブランシュ様、これ食べて行ってくださいよ」

 ブランシュの提案で、定期的に街を視察したおかげで、住民たちとはずいぶん砕けて会話ができるようになった。それまで、オレールの人となりを知らずにいた人々も、この領主は口下手だが、誠心誠意領民のことを考えてくれているのがわかっていたので、今では好ましく思っている。
 みんなの感謝の声に、ブランシュはとても、幸せな気持ちになったのだ。

 屋敷に戻り、ブランシュは部屋へと戻った。

《楽しかったみたいだな》
「ルネ」

 街で見たいろいろなことをルネに伝える。リンゴの矢当てのゲームをしているところがあって、オレールが見事に当てたことが一番の思い出だ。

「とっても恰好よかったのよ」
《ちぇ、オレールの話ばっかりだな。言っておくけど、僕だって人間のときは相当恰好よかったんだからね》
「そうなの。絵姿も残っていないのだもの。残念ね」
《姿なら見せられるよ》

 ルネは周囲をきょろきょろ見回し、部屋にブランシュと自分しかいないのを確認すると、人間の男の姿を取った。
 銀色の波打つ髪、瞳は金色で、理知的な整った顔をしている。背はすらりと高く、まるでリシュアンの絵姿ようだ。

「えっ? 本当にルネ? 人間の姿にもなれたの?」
《まあね。ただ、人間は構成が複雑だから、術式が難しくてあんまりやらない》

 そう言うと、すぐに猫の姿に戻る。見惚れていたブランシュはちょっと残念な気持ちだ。

「残念、恰好よかったのに」
《ブランシュの好みとは違うでしょ》
「でも絶対もてたと思うわ。そうでしょ?」
《まあねー》

 褒められれば、ルネもまんざらでもない。ご機嫌で尻尾を揺らしていると、ブランシュがふと疑問を口にした。

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