語彙力ゼロなアドレナリン女子は、ダウナーなイケボ男子をおとしたい
 入り口から出た瞬間に、視線を感じて見たら、強い目力に射抜かれた。翡翠は相変わらず強い目力だけれど、目が合うと一瞬その表情が緩む。その瞬間を見るのが好きなのだ。

 翡翠が「おつかれ」と言うと、数名の通行人が振り返った。翡翠の声は低く甘い。
 その人は私の、と言いたいけれど、全然私のものではない。

 ただ手を振る。
「ありがと、来てくれて」
 と言ったら、素っ気なく、ああ、車あっちと言う。
 ほら、私のものではありえないのだ。

 車に乗り込んで、どこに行ってたの?と聞けば、翡翠は未練探し、と言うのだった。
「あ、学校か」
 と私が言えば、静かに頷く。
 周辺環境も見て来た、と言うのだ。口先では未練がないように言っていたけれど、やっぱり学校が気になっていたらしい。

 明日は午後からフリーだから一緒に行っていい?と言ったら、好きにすれば、と翡翠からは意外にもOKが出た。
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