公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

大人の問題(お母様視点)

 結局、私はルネリアと話すことができなかった。
 泣いている彼女に、どんな言葉がかけられただろうか。それが、私にはわからなかったのだ。

「わからないことだらけね……」

 私は、自分がわからなくなっていた。
 ルネリアに、私は憎しみを覚えていたはずだ。だが、それなのに今、私は彼女に少し同情している。
 母を失い、見知らぬ者達に囲まれた所に連れて来られた彼女に、私は哀れみを覚えているのだ。

「生まれてきた子供に罪はない……そう考えるべきなのかしらね」

 私は、ルネリアのことを恨むべき対象ではないと思うべきなのかもしれない。
 夫もその浮気相手も、私が許せないことをした。ただ、彼女はそうではない。そんな彼女に怒りをぶつけることは間違っているだろう。
 それは、わかっていたことだ。わかっていても完全にそうは思えなかったことだ。
 だが、今なら思える。彼女の生まれは、彼女に関係ないのだと。

「それで……いいのかしら?」

 しかし、そこまで考えても私は迷っていた。本当に、それでいいのかと。
 悩んでも悩んでも答えは出ない。自分の心も理論も混ざり合って、私はひどく混乱するのだった。

「……え?」

 そんな私は、気分を変えようと窓の外を見た。すると、そこには二人の少女がいる。
 それは、私の娘であるオルティナとルネリアだった。二人が、庭で遊んでいるのだ。

「オルティナ……」

 楽しそうに笑っているオルティナと比べて、ルネリアは少し困惑しているように見える。ただ、それでもオルティナについて行っているのは、それが楽しいと思っているからだろう。

「そうよね……あの子には、私達のことは関係ない」

 そこで、私は思い出した。オルティナは、何度か弟や妹が欲しいと言っていたことを。
 そんな彼女にとって、ルネリアの存在はとても嬉しいのだろう。妹ができて、彼女ははしゃいでいるのだ。
 そこには、私達大人の確執はない。彼女達二人にとって、それは重要なことではないのである。

「そうよね……大人のことは、大人で解決しなければならないのよね」

 楽しそうに二人を見て、私の中にあった迷いは一気に晴れていた。
 彼女達は、大人の問題とは関係がない場所にいる。そんな彼女達に健やかなる日常を送ってもらうためにも、大人の問題は大人で解決するべきなのだろう。

「どうしてかしらね……案外、晴れやかな気分なのは」

 結論を出して、私は何故かとても晴れやかな気分になっていた。
 こんな気分になるのだから、私が出した結論は間違っていないのだろう。そう思って、私は少しだけ笑うのだった。
< 10 / 135 >

この作品をシェア

pagetop