公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

貴族の結婚式(アルーグ視点)

「俺達貴族の結婚式というものは、お前のいた村に比べると、形式的なものだといえるかもしれないな」
「形式的なもの?」
「ああ、多くの者達に、この二人が結婚したという事実を示す場、とでもいうべきだろうか」

 俺は、ゆっくりとルネリアにそう語った。
 貴族の結婚式、それは楽しいものとはいえないだろう。少なくとも、ルネリアが体験したものと比べれば、つまらないものだ。

「関係する貴族達から、中身のない祝いの言葉を受け取るための場だ。楽しいものではないだろう」
「そ、そうなんですね……」

 俺も貴族の結婚式というものには、何度か参加したことがある。
 しかし、そのどれもがいい思い出とは言い難い。あまり進んで開催したいものではないのだ。

「アルーグ様、もう少し言い方というものがあるのでは?」
「取り繕っても仕方ないことだ。事実を伝えるべきだろう」
「でも、それは……」
「ルネリアは聡い子だ。嘘偽りも、すぐに見抜かれるはずだ」

 カーティアは、俺を諫めるようなことを言ってきた。
 だが、ルネリア相手に取り繕うのは無駄なことだ。
 彼女は、まだ幼いが鋭い所がある。少なくとも、俺が本心で言っているかどうかくらいは、見抜くことができるだろう。

「それでも、もう少し遠回しに説明した方がいいのではないでしょうか? 流石に、直接的なものといいますが……」
「えっと……カーティアさん、大丈夫です。確かに少しびっくりしましたが、本当のことを伝えてもらえて良かったです」
「ルネリアちゃん……」

 カーティアの言っていることは、俺も理解できない訳ではない。彼女にショックを与えないためには、もう少し誤魔化すべきだっただろう。
 しかし、俺はそれを問題の先送りにしかならないと思っている。いずれ、ルネリアは俺達の結婚式に参加する。いきなりそこに参加するよりも、事前にこのような情報を与えておく方がいいだろう。
 そうすれば、ある程度の覚悟が決められる。何も聞かされていない状態で結婚式に臨むよりも、そちらの方がいいはずだ。

「ルネリア、もう一つ言っておくことがある」
「は、はい……なんですか?」
「俺達の結婚式は、明るいものにはならないだろう。その理由は色々とある……あまり言いたくないが、父やお前のことで、他の貴族達はこのラーデイン公爵家を侮っている」
「それは……」

 俺の言葉に、ルネリアは悲しそうな表情になった。それは、そうだろう。今俺が語っているのは、彼女にとっては厳しいことだ。
 だが、これも伝えておかなければならないことである。

「もちろん、俺や他の家族達はお前のことを全力で守るつもりだ。しかし、それでもある程度の覚悟を決めておけ」
「……はい」

 ルネリアは、真剣な目で俺の言葉に頷いてくれた。
 恐らく、これなら大丈夫だろう。その目を見て、俺はそんなことを思うのだった。
< 113 / 135 >

この作品をシェア

pagetop