公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

とある考え(エルーズ視点)

 僕は、公爵家の別荘で過ごしていた。
 別荘は、とても心地いい場所にある。空気も綺麗なので、僕は庭に出て風にあたっている。

「ふぅ……」

 ゆっくりと伸びをしながら、僕はこれからのことを考えていた。
 お父様とお兄様は、何か話をしている。それは、僕にはあまり聞かせたくないことであるらしい。
 その内容は、正直さっぱりわからないが、今の状況があまりよくないということはわかっている。
 お父様は、明らかに憔悴していた。あれは、一体どういうことなのだろうか。それが、僕は気になっているのだ。

「もちろん、色々なことがあった訳だし、精神的に参っていると理解できない訳ではないけど……」

 お父様は、かつての過ちによって、この別荘で暮らすことになった。
 それは、仕方ないことである。事実として、お父様はお母様を裏切ってしまったのだから。
 ただ、本人として、それが辛いことであるのは当たり前だ。そのため、疲労していてもおかしいことではない。
 だが、今のお父様は流石に顔色が悪すぎるだろう。いくら落ち込んでいるからといって、あそこまでなるものなのだろうか。

「僕のように、体が弱いという訳でもなかったよね……」

 お父様は、別に健康だったはずだ。
 それなのに、あそこまでなっているというのは、どうにも違和感がある。
 その理由がわかれば、何かできることがあるかもしれない。そう思って、僕は思考を働かせる。

「……そういえば、昔の僕はあんな感じだったのかな?」

 そこで僕は、ふと気になった。
 もしかしたら、昔の僕はあんな感じだったのではないかと。
 あの頃の僕は、生きる希望というものを持てていなかったような気がする。
 どうせこんな体からと諦めて、前を見ていなかった。絶望して、何事にもやる気を出せていなかった気がする。

「そんな僕は、ルネリアのおかげで前を向けるようになった……彼女の涙を見て、僕は決意したんだ。元気になって、生き抜いてみせると」

 ルネリアの涙は、今でも記憶に刻みついている。
 妹を泣かせるなんて、兄としては情けないことだ。あんな涙は、二度と見たくない。
 だから、僕は元気になりたいのである。健康になって、ルネリアや皆を安心させたい。それが、今の目標であり、生きる希望なのである。

「もしかして、お父様は生きる希望がなくなっているのかな……」

 そこまで考えて、僕はとある可能性に思い至った。
 いや、それは誤りかもしれない。僕はそれを頭の片隅に置きつつ、考えないようにしていたのだ。
 だけど、考えていく内に、その可能性が高いことを悟ってしまった。一度そう思ってしまったら、もう止まることはできない。
 こうして、僕は自らが何をするべきなのかを理解するのだった。
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