公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

私の婚約者(イルフェア視点)

「王妃の座に興味はあるか?」

 初めて会った婚約者から、最初にそう言われたことは、今でもよく覚えている。
 私の婚約者は、この国の第二王子キルクス様だ。王位継承権を持つ彼から、そんなことを言われた際に、私はひどく困惑していた。
 正直言って、王妃の座なんてものには露ほどに興味がなかった。ただ、そう言っていいのかは少し考えるべきことだったのだ。
 こんなことを聞いてくるのだから、彼が求めているのは興味があるという答えだと思った。そのため、私は素直に答えるべきか少し躊躇ったのである。

「……いいえ、まったく興味がありません」

 悩んだ末、私は素直に言うことにした。本心を隠した所で、それは無駄なことだと思ったからである。
 もしそれで王子を怒らせて、その結果この婚約がなくなったとしても、それはそれでいいのではないかと思った。
 婚約破棄の一つでもされたら、私も特別ではなくなるだろう。そんな打算も、心の中にはあったのかもしれない。

「そうか。素晴らしい心掛けだ」
「え?」
「安心したぞ。そう答えることができる者が、俺の婚約者になってくれて」

 私の予想とは違い、王子は私の返答に喜んでいた。
 その反応が、正直よくわからなかった。あの質問をしておいて、こんな答えを求めていたなんてあるのだろうか。

「俺は、王の座に興味はない。あそこには、兄上……ガルディアスが座るべきだと思っているし、座らせようと思っているからだ」
「……お兄様に?」
「ああ、兄上は王の器を持っている。それは、政治の才能という訳ではない。人の上に立つ力……人を惹きつける力とでもいうべきか。それを持っているのだ」
「人を惹きつける力……」

 キルクス様は、お兄様のガルディアス様に対してそんな感想を抱いているらしい。
 人を惹きつける力。それには、とても興味があった。もしかしたら、私もそれを備えているかもしれないからだ。

「兄上が王になり、俺はそれを支える。それが一番いい形であると、俺は思っているのだ。故に、俺は王妃になりたいなどという余計な野心を持っている者を必要としていない。だから、お前の言葉に安心したのだ」
「……なるほど、そういうことだったのですね」

 キルクス様の考えは、少し不思議なものだった。
 自分ではなく、兄を王にしたい。そう考えるのは、それ程彼のお兄様に人を惹きつける力があるということだろうか。

「すごい人なのですね……ガルディアス様は」
「ああ、そうだな……確かに、兄上は素晴らしい人物だと思う」

 キルクス様のお兄様を語る際の目は、見たことがあった。私に憧れを抱く者達と同じような目をしているのだ。
 やはり、ガルディアス様は私と同じような人なのだろう。私は、そんな感想を抱くのだった。
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