日給10万の結婚
「舞香さん、大丈夫ですか……! 忘れ物はありませんね?」

「はい、オッケーです。圭吾さん運転よろしくお願いします!」

「ああ、舞香さんは堂々としてるのに、なぜか僕の心臓がチクチク痛みますよ……緊張するな」

 そう言う彼に、私はまた笑ってしまう。自分のために、自分以上に緊張してくれる人がいる。それはとても幸せなことで、こちらをリラックスさせてくれる。

「ありがとうございます。でももう、なるようにしかなりませんから!」

「ほんと、玲さんは見る目ありましたよね~舞香さんじゃなきゃ、こんなの耐えられませんよ。本当凄いです。では、もうそろそろ出ましょうか」

 私は頷き、三人で家を出た。

 玲と圭吾さんは仕事もあるというのに、二人で伊集院家まで送ってくれることになっている。その厚意に素直に甘え、私は車に乗り込んだ。普段通り圭吾さんが運転席、後ろに玲と並ぶ。

 安全運転で発車した車内で、玲は落ち着かない様子で私に言う。

「いいか、どうしても辛かったら体調悪いことにして帰ってこい」

「はい」

「別に失敗してもいい、伊集院に変な嫁と思われても、そんな気にしなくていいから」

「はい」

「なんかあったら、俺の名前出せ。俺の指示でやったって言えばいいから」

「もー何度も聞いたよ!」

 呆れて声を上げる。まるで心配性なお母さんだ。玲ってこんなやつだったっけ? 彼は咳払いをして、腕を組み窓の外を見た。

「別にお前を信頼してないわけじゃないからな」

「それも何度も聞いた」

「とにかく堂々としてればいい。失敗しても失敗したって顔しなければなんとかなる」

「ちょっと私の耳見て、タコ出来てない?」

 そうふざけて言ってみると、玲はあからさまに目を座らせた。私は一人でケラケラと笑ってしまう。そんな私を見て、玲は深くため息を吐いた。
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