夫婦ごっこ
「奈央さんといるときは割とそうだと思うけど?」
「えー? 本当に?」
「本当です。うっかりうたた寝してしまったり、パズル解くのにあんなに夢中になったり、奈央さん以外の前ではしません」
「うーん、それは嬉しいですけど、やっぱり私のほうが気を抜いてる度合いが大きい気が……」
「そんなことないよ。声を上げて大きく笑えるのも奈央さんといるときだけだし、ゲームに本気になって張り合えるのも奈央さんとだけ。奈央さんといるときはいつだって気を張らずにありのままの自分でいられるから」

 なんだか言いくるめられているような気がしなくもないが、奈央といるときだけありのままでいられると言われたら嬉しくなってしまう。まるで長年連れ添った夫婦みたいだ。

「ふふ、そうなの? なんだかもう本当の夫婦みたいだね」
「そうだね。もうごっこなんてほとんど意識してない。ただただ奈央さんと一緒にいるのが楽しいだけ」
「私も。義昭さんといると楽しい。毎日幸せ」

 今感じている幸せは間違いなく本物だ。二人の絆も偽りなんかじゃない。ごっこだからではなく、ちゃんと家族として想い合えている。だから、この先何か苦労することがあっても、義昭の手さえ離さなければ、何でも乗り越えられるような気がした。
< 68 / 174 >

この作品をシェア

pagetop