妖帝と結ぶは最愛の契り
「小夜姉さま!」

 慌てて袿を脱ぎ捨てようとする小夜を手伝う灯。
 そんな二人の横を通り、碧雲は御簾にも火を点け焼いていく。
 上手い具合に御簾だけが焼き消えると、妻戸の裏に隠れていた美鶴の衣が見えてしまった。

「美鶴様!」

 反対側の妻戸に共に隠れていた香が美鶴を守ろうと出てくる。
 だが、ただでさえ大人と子供の差。簡単に押し飛ばされてしまった。

「香!」

 思わず駆け寄ろうと妻戸の陰から出るが、香の元に行く前に腕を掴まれてしまう。

「手間をかけさせるな」
「っ!」

 碧雲の強い手に、美鶴はそのまま母屋の方へ引きずり出されてしまった。

 どくどくと血流が早まる。
 これから一体どうなってしまうのか。
 恐怖に震えそうになるが、子を守るためにも冷静に見極めなくてはと叱咤した。

(大丈夫、少なくとも薬はもうないはずよ。今ここで御子が殺されてしまうようなことにはならないわ)

 腹の子以外の誰かが死んでしまうのであれば、予知はその人の死を視せるはず。
 だから、誰かが死んでしまうほどの酷いことにはならないはずだ。

 自分に言い聞かせるように考え心を落ち着かせる。
 だが、なんとか冷静な思考を取り戻した美鶴に碧雲はまたかき乱すような言葉を放った。
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