妖帝と結ぶは最愛の契り
(まさか御子に何か?……いえ、この感覚は――)

「うっ……美鶴様? もしや、陣痛が始まっておられるのではございませぬか?」

 弧月の妖力の圧が無くなったことでなんとか体を起こした小夜に聞かれる。
 陣痛は月のものの痛みを強くしたようなものだと聞いた。そして、波のように一定の感覚を置いて起こるのだと。

「……そう、かもしれません」

 重い痛みは徐々に強くなっているし、一定の感覚を開けて痛む気がする。
 元々いつ生まれてもおかしくない状態だったのだ。今陣痛が来たとしてもおかしくはない。

「は? なっ⁉ う、生まれるのか? 一先ず横に――いや、まずは医師(くすし)か?」

 先ほどまで強き妖帝として引き締まっていた弧月の顔が少々うろたえた表情になる。
 その落差がどこか可愛らしく思えてしまって、美鶴は「ふふっ」と笑ってしまった。

「そうですね、女医(にょい)を呼んで下さいまし。私は小夜と共に移動致します」

 出産では多くの血が出る。
 血は穢れのため、内裏で出産するわけにはいかないのだ。

 昔は貴族の娘も都を離れ山の中にある小屋で出産したようだが、数代前の妖帝があまり離れていては危険もあると言い出し都の端に専用の小屋を建てた。
 そこに移動しなければならない。
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