妖帝と結ぶは最愛の契り
 この間父と春音が内裏へ侵入してきたとき、彼らは母が病んでいると言っていた。
 もうこの家とは関わらないと決めていたが、美鶴が死んだと思い病んでしまったと聞いては知らぬと突き放すことも出来ない。
 それでも戻るわけにはいかないため、弧月に母の世話をしてくれる者を手配してもらったのだ。
 ……家族の情が薄い春音ではまともな世話をするとは思えなかったから。

 その父と春音は今この家にはいない。
 あの後、美鶴の親族ということで特に罰を受けることはなかった二人だが、代わりに二度と美鶴の前に姿を現さないことを約束させられたらしい。
 なので二人のいないときを選んで美鶴はここに来た。

 最後に、もう一度だけ母に会うために。

「顔を上げてください。母を見て下さって、ありがとうございます」
「いいえ、仕事ですので。お気になさらないでください」

 顔を上げた女性は思ったよりも若く、真面目そうな顔をしていた。
 少し厳しそうな人に見えたが、逆に仕事ならばそつなくこなしてくれそうだ。

「それで母は……」
「寝室におります。今日は少し調子がいいのか、朝から起きて待っていましたよ」

 そう話す世話人の女性は僅かに笑みを見せた。
 その顔を見て彼女は母の世話を嫌々しているわけではないことが分かり、美鶴は安心する。

 彼女の話では、母は初め完全に寝たきり状態で、生きようという気力がまるでなかったのだそうだ。
 だが美鶴が生きていると知り、少しずつ回復に向かっているのだという。
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