妖帝と結ぶは最愛の契り
(違うと言ってこの人から離れよう)

 家に引きこもることが多く世間知らずな部分もある美鶴だったが、人の悪意には敏感だ。
 男の浮かべる笑みが何らかの悪意から来るものだという事だけは何となく理解する。

(これ以上この人と関わってはいけない)

「あの、違うようですので――」
「おお、これはあんたのか!」

 違うと主張する声を遮った男は、否定の声を無視して反物は美鶴のものだと決めつける。

「ちゃんと返してやるから、ちょいと俺に付き合ってくれないかい?」
「え? やっ!」

 強引な話の持って行き方に不安を覚え、すぐにでも逃げようとするが少し遅かった。
 男から離れる前に彼の手が美鶴の腕を掴む。

「ほら、こっちに来るんだ」
「い、嫌です。離してくださいっ!」

 強い力に恐怖を覚え叫ぶが、男が離してくれるわけもなく美鶴はそのまま引きずられるように連れて行かれてしまう。

 周囲から感じるのは哀れみの視線。
 だが、助けようとする者はおらず目が合った人はさっと視線を逸らしていく。
 関わりたくない。態度がそう物語っていた。

 少し悲しくも思うが、治安が悪い場所を女一人でうろついていた自分にも非はあるのだろう。
 例え自らの意思ではなくとも、周囲にはそのようなことは分からないのだから。

 だから、助けてもらおうなどとは思っていない。
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