妖帝と結ぶは最愛の契り
 ぱきぱきっと、近くの小屋の柱が鳴り視線を上げた。

(ああ……そう、この柱だわ)

 予知で視たものと重なる。
 この柱が倒れて、自分は死ぬのだ。
 そう、淡々と死を受け入れようとする。
 なのに、ばきん! と一際大きな音が鳴って柱が落ちてきた瞬間、脳裏にある記憶が蘇った。

 走馬灯なのだろうか。
 今ではもう忘れてしまったと思っていた記憶。
 春音が生まれるより前、異能を持っているとまだ分からなかった頃の記憶。
 母に、「愛しているよ」と抱きしめられたことを思い出してしまった。
 何故今それを思い出してしまったのか。
 今はもう愛されてなどいないのに。
 思い出して、生き延びたとしても愛されない日々が続くだけなのに。
 なのに、思い出してしまったから……だから、思ってしまった。

(生きたい!)

 でも、赤い炎を纏った柱は無情にも美鶴に向かってくる。
 避ける暇もなく、腕を上げて身を守るそぶりしか出来ない。
 生きたいと今更思っても、死は目の前に迫っていた。

(そうよ、予知を変えることは出来ないのだったわ)

 今まで、どんな事柄でも変わることはなかった。
 当たって欲しくない予知を回避しようとしても、それは必ず起こってしまう。
 生きたいと胸に宿った(ともしび)は燃え盛りそうなほどに熱いのに、現実だけが上手くいかない。
 そして、まさに美鶴の身に柱が落ちる寸前それは起こった。

 ごぉうっと音を立て、青い炎が目の前を横切る。
 その炎は美鶴に落ちてくるはずだった柱を押しのけ吹き飛ばした。
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