妖帝と結ぶは最愛の契り
「そなたを忘れていないという証か……」

 呟き、考え込む弧月を見て不安になった。
 よく考えてみれば何という我が儘だろう。
 自分を忘れない証という抽象的(ちゅうしょうてき)なもの、何か物が欲しいというよりも困らせてしまうのではないだろうか。

「あ、あのっ――」
「そうだな」

 願いを取り消そうと声を上げた美鶴だったが、弧月に遮られてしまう。

「では、毎日花を一輪贈るとしよう。そなたのことを忘れていないという証に」
「花を?」
「ああ。俺は早朝庭を散策するのが日課でな、そのときに一輪手折ってそなたに贈ろう」
「主上自ら手折って下さるのですか?」
「なんだ、不服か?」
「そんな! むしろ畏れ多くて」

 自分一人のために妖帝の手を汚してしまうのが忍びない。
 そう思い慌てる美鶴の頭を弧月は優しく撫でる。
 その手にはやはり安心感を覚えた。

「そなたはそればかりだな。もう少し我が儘になってもいいと思うぞ?」
「十分、我が儘だと思いますが……」

 居場所を用意してくれただけでも有難いというのに、毎日妖帝自ら手折った花を贈ってもらうのだ。
 これほどの贅沢はないのではないだろうか。

「全く……()いやつだ」

 微笑む弧月は、そのまま美鶴の髪を(もてあそ)ぶように撫でる。
 美鶴は安らぎを与えてくれるその手に、今だけだからと名残惜し気に浸った。
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