妖帝と結ぶは最愛の契り
不穏の種
 灯と香が耳を疑いたくなるような報告をしてきたその夜、美鶴は帷子(とばり)を下ろした御帳台(みちょうだい)で一人弧月を待っていた。

 自分以外に妻はいらぬと言っていた弧月が進んで新たな妻を迎えるとは思えない。
 だが、灯と香は公卿が話しているのを聞いたという。
 深紫の衣を纏う上位官が嘘や噂に惑わされ不適切な言動をしたとも思えず、小夜に頼んで弧月に問い合わせた。

 すると、夜に訪れるのでそのとき詳しく話すと返事が来たのだ。

 ふぅ、と何度目かもわからないため息を吐き、リーンリーンと鳴く鈴虫の声を聞く。
 虫聞きにと小夜が用意してくれた籠から聞こえる声は、秋の夜長に美しく響いた。
 流石に寝るときには母屋から出しているが、それでも良く耳に届く。

 そんな雅な声に耳を傾けながらも考えてしまう。
 弧月に自分以外の妻が出来るということを。

 弧月は妖帝なのだから、何人もの姫を妻として迎えるのが普通だ。子が出来ぬからいらぬ、と弧月が言うから今までいなかっただけで。
 だから自分以外の妻がいてもおかしくはないのだ。
 理性では、そう納得している。

 だが感情の面では納得など出来るわけがなかった。
 互いに愛を確かめ合い、腹の子も順調に育っている。
 このまま幸せな時が続くのかと思っていた矢先の出来事で、美鶴は荒れる感情を押さえつけるだけで精一杯だった。
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