姐さんって、呼ばないで
許婚、現る
四月中旬。
入学式から一週間が経過した、とある日の朝。
教室に入ると、クラス内がざわついている。
「おはよう、どうしたの?」
ドアのすぐ傍にいたクラスメイトの森野 晃子に声をかけた。
私、向坂 小春。
少しくせのあるセミロングで、見た目は『純和風』という雰囲気の女の子。
『大和撫子』だと思われがちだが、竹を割ったような性格で、噂話や陰口が大嫌い。
だから、不穏な雰囲気を察知すると無意識に渦中に首を突っ込んでしまう。
「あ、小春ちゃん、詠ちゃん、おはよう。ほら、例の……休んでた二人が今日から来るらしいよ?」
「例の?」
「あっ、とうとう……」
「詠ちゃん、知ってるの?」
「え、……あ~ん~…?」
一緒に登校してきた親友の栗原 詠が、少し歯切れの悪い返事をする。
詠ちゃんとは中学から一緒で、甘いものと小春が大大大好きな女の子。
五歳から空手をしていて、小春に寄ってくる男を追い払うのが日課で、『自分が男だったらよかったのに~』が口癖。
「詠ちゃん?」
「う゛っ……」
小春の黒々とした澄んだ瞳に見つめられ、詠は泣く泣く白旗をあげた。
「先生が言ってたでしょ。……大怪我して休んでるって」
「……あぁ、そう言えば、入学式初日から休んでる人がいるよね」
「そそ」
詠は小春からあからさまに視線を逸らし、苦笑した。
「来れば分かるでしょ…」
自席へと向かいながら、詠はぼそっと呟いた。
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