姐さんって、呼ばないで
ぶっ飛んでて、ヤバい人
とある日の昼休みの教室。
「小春、どこに行ってたんだ?」
「え?……あっ、購買に」
「購買?」
四限目の終了を知らせるチャイムが鳴るや否や、親友の栗原と一緒に教室を飛び出した小春。
少しして戻って来た彼女に声をかけたが、手にしているのはオレンジの缶ジュースだけ。
「それが欲しかったのか?」
「……ううん、違います」
自動販売機は各校舎の正面玄関を出たところと、正門前の商店にある。
授業終わりで飛び出して買わないとならないほど、売れ筋商品というわけでもないだろうに。
小春はシュンと肩を落とし、鞄からランチバッグを取り出す。
「仁さん休んでて知らないと思うけど、この学校の購買に、毎日限定十個のバナナプリンってのがあるんです」
「バナナプリン?」
「はい。手作りプリンで、めちゃくちゃ美味しいって評判で、毎日トライしてるんだけど、限定十個だから中々買えなくて」
「そんなに旨いのか?」
「分からない、食べたことないから。でも、伝説みたいに言われてるし、一度でいいから食べたいね~って小春と話してて」
栗原の説明に小春はこくこくと頷く。
栗原は中学から一緒で、小春と仲が良くなり、今では親友だと俺でも認める存在。
幼い時から空手をしていて、俺が守れない学校生活で小春のボディガードを自ら好んでしてくれた人物。
美人で素直な小春と馬が合うようで、小春のことが大好きだと豪語する。
まぁ、俺には負けるが。
小春の傍にいてもいいと俺が太鼓判を押す奴だ。
小春も栗原も決して足が遅い口じゃない。
むしろ運動神経は良い方で、そんな彼女らがスタートダッシュしたのにもかかわらず買えないという。
それほどまでに旨いのか。
気にはなるな。
「そもそも、ここは不利なんです」