姐さんって、呼ばないで

「小春ちゃん、遂に『姐さん』になったんだねっ!」
「は?どういうこと??」
「え、観てないの?」
「……何を?」
「これこれ…」

美路ちゃんの手元に視線を落とすと、立ち上げたスマホの画面に釘付けになった。
十分ほど前に、一年C組のオープンチャットに鉄さんが、昨夜の様子をアップしていたのだ。

「何これっ!!!」
「うっわぁ~、これじゃあ、拡散されてもおかしくないわ~」
「か、拡散ッ?!!」
「じゃないと、『姐さん』コールかからないでしょ」
「……」

詠ちゃんは自身のスマホを鞄から取り出し、爆笑しながら観始めた。

……帰りたい。
これ、公開処刑じゃん。
恥ずかしすぎて、涙出そう。

自席に着き、力なく椅子に座り込んだ、その時。

「小春っ、この指輪……仁さんから貰ったの?!」
「……え?」

駆け寄った詠ちゃんがスマホの画面をスワイプして見せる。

「……うん、貰った」
「わぁ~、これが一番の驚きだよ~♪」

仁くんとの関係も組との関係も知っている詠ちゃん。
許婚とは口で言ってても、これと言って何かをして来たわけじゃなかったから。
だから、婚約指輪を貰えたことが一番驚きだったみたい。

自身のスマホでも確認したけど、結納の儀の時の写真や動画はアップされてなかった。
たぶん、仁くんが先に手を打ってくれたんだと思うけど。
私と彼(組)だけの秘密として。

「兄貴、おはようございます」
「はよ」

クラスメイトの男子が登校して来た仁くんに挨拶する。
私と視線が絡むと、悪戯が成功したみたいなちょっと意地悪い笑みを浮かべて。

「おつとめ、ご苦労さん“姐さん”」
「仁くんは、姐さんって、呼ばないで!」
「あーはいはい」

クククッと笑いを堪えながら、ぽふっと大きな手が頭に乗せられた。
彼の手のあたたかさに、全てを甘やかしてしまうじゃない。
だってこんなにもカッコいい人が、私の婚約者なんだもん。

~FIN~


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