幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!
「ぶっ!」
『はあっ!?』
 言っている内容にはちっともためらいがない。

「な、ななな、何言ってるの!?どこがどうなったらそういう発想がこんにちはするの!?」
 驚きのあまり鼻息荒くわたしは言う。

「なんつうのか、阿吽の呼吸みたいなものが二人の間にある気がして……」
「そ、それは、幼なじみだし、ね?コータロー?」

 そうわたしは幸太郎に助け舟を求めるけれど、幸太郎は、
『でも、今後ないとは言いきれないけどな……』
 とごにょごにょ何か言っていて役に立たない。
 いや、忘れがちだけれど、そもそも火恩寺君に幸太郎の話している内容は聞こえないんだっけ。

「とにかくね、コータローとはそういう関係じゃないから!」
 わたしがそう言うと、火恩寺君は目を丸くして、それから顔をほころばせる。
「なら良いんです。ねんごろな相手がいないなら、俺は姐御をまっとうな方法で誘うことが出来る」
「え?」
 精悍な顔つきになり、火恩寺君は言い放った。

「姐御。夏祭りで、最後の花嫁になってくれませんか?」
『なっ!それが狙いか……!』
「最後の花嫁って、お祭りの舞い巫女のこと?」
「はい。ねんごろな相手がいると龍が嫉妬すると言われているので、確認したんです」
「そうなの?でもどういうこと?」

「ここで詳しい話をしたいところですが、恐らく時間が……」
「時間?」
 火恩寺君の言葉に腕時計を見ると、部活開始10分前だった。
 着替えの時間を含めたら、もう既に5分切っている。

「ち、遅刻!?」
「せん越ながら、姐御。失礼します」
 火恩寺君は何やら側に寄ってきて、一思いに――――わたしを抱き上げた。

「はいぃぃ!?何で?」
「これでも俺は脚に自信がある方なんで。それに、道を行かなければ遙かに早く着きます」
 と言っている側から、火恩寺君が塀の上に飛び乗ったのが分かった。
 ひゅん、とお腹の辺りが寒くなる独特の感覚があったからだ。

「こ、怖いんですけど……!」
「大丈夫です。ちゃんと俺の肩でも首でも好きなところにつかまっていてください」
『待てっ、俺もつれてけ!』
 幸太郎もものすごい跳躍力で塀の上に跳ね、それから火恩寺君の肩に飛び乗った。

「犬もか、仕方ねぇ……。行きますよ」
 そう声をかけた瞬間には屋根の上にいて、数秒も立たずに次の屋根へと跳躍する。
 ぐわんぐわんと上下する動きに、わめき声を上げながら、遅刻すれすれでわたしは学校に着いたのだった。
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