幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!

 いつまでも動き出そうとしない、マルチーズを待つこと十分。
 ついにわたしは痺れをきらしてきてしまう。
「コータロー、まほりのとこ行こうよ」
『くぅぅん』
 わたしがそう言っても、幸太郎はあたかも犬のように鳴くだけ。

 こうしていても、埒があかない気がして、地面に丸くなる幸太郎のわきの下に手を入れると、赤ちゃんにそうするみたいにして体を抱き上げる。
『え!ええっ!?何してんだよ!』
「ぐだぐだ言うなっつーの!さっさとまほりのとこ行くよ!」
『ミサキには俺の気持ちなんてわかんねーよ……』

 ぶうぶう文句を言う幸太郎を腕の中に収める。
 軽い。体重はウサギくらいかもしれない。
 腕に触れるもこもことした体毛が心地良くて、つい空いた片手で撫でてしまう。
 さっきは我慢したのに、失敗。無駄に見た目が可愛いから悪い。

 そうこうしていると、
『ちょっ、ミサキ!抱っこはさすがにっ!』
 幸太郎がわたしの腕の中でじたばたと暴れる。
「もう!何で暴れるの?」
『何でって……。分かんねーの?』
 幸太郎は顔をあげてこちらをうかがう。
「分かんないけど?」

 わたしがそう言ったとたん、マルチーズはものすごいあくどい顔で笑った。
 犬が笑うってよく分かんないけれど、多分今のが笑うって表情だ。
 口を曲げて、目を鈍く光らせて――にやり。

『じゃあ、いっか』
「今の顔が、わたしとしては気になるけど……」
『気にしない気にしない。さっさと行こうぜ!』
 俄然やる気になるのが何だか怪しい。
 でも、幸太郎の折角のやる気に水を差す気にもなれなかったので、とりあえず保留にして、まほりに会いに行くことにした。
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