幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!
 昨日見た、妙にリアルな夢はこのときのものだったようで、今、わたしは当時のわたしの視線から、ものを見ている。
 わたしたちは、夕涼みと観光がてら、カルデラ湖に行っていた。

 湖の水面を眺めていると、幸太郎に、落っこちる、と手を引かれる。
 そして幸太郎がズボンを脱ぎかけて止められ、それから一人の男性がやって来た。
 すべてあの夢の通りだった。

 ただ違うのは、わたしがその人に見覚えがあるどころか、ついさっきまで見ていた顔だと気づいたことだった。
さっきの変な世界にいた穂波君そのものだったからだ。
 ただ、雰囲気が大分落ち着いていて、さっきの穂波君より少し年かさはいっていそうだとは思った。

 どういうことなんだろう、この人は穂波君のお兄さんか何かなのかな。
 そうやって浮かんだ疑問の答えは、その人とお父さん達との会話が教えてくれた。

「この人が“超犬戦隊ケンエンジャー”でドッグブルーの役をやっている穂波斉史(ヒトシ)さんだよ。今回の映画版でもブルー役を演じるらしい。ミサキ、ブルー好きだろう?」
 お父さんがその人を紹介してきたので、わたしはその人の顔を見上げる。
 穂波さんは柔らかな笑顔で、わたしにありがとうと言う。幸太郎が何か言いたそうな顔でじっとこっちを見ていた。

「でも、恥ずかしいな。もういい年なのに学生の役だし」
「似合うからいいんだよ、それにまだぎりぎり二十代だろ」

 幸太郎のお父さんがそんな風に冗談めかしていうと、恥ずかしそうに穂波さんは笑う。
 それは、わたしの記憶の中におぼろげにあったドッグブルーのイメージにぴったりはまった。

 今まで穂波君にいだいていた既視感はすべてここにつながっていたのだ。
 穂波君そっくりのこの人に。
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