幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!

●一緒に老いましょう

 そして今に至る。
 さっき、羽織っていた薄物や着物、袴をほどいて脱ぎ捨て、飾りの鏡をその上に投げて、と軽量化して最終的に長じゅばん一枚になった。
 大分動きやすくなって、良かったと思うのもつかの間、脱ぎ捨てたものを追って、何人もの人が追ってきている。

 二度ほど、そういう人たちに捕まりそうになったときに、左右それぞれの草履を投げて凌いだけれど、もう手元に武器はないし、今度捕まりそうになったら確実にまずい。
 松代君にとり憑いてまで追いかけてくる龍だから、捕まるとどんなことをされるのか分かったものじゃない。

 でも、ランナーズハイなのかなんなのか、すうっと頭が一瞬冷静になると、何で逃げてるんだろう?と素朴な疑問が頭をもたげてくる。
 わたし自身は何も悪いことしてないのに、龍の変な求婚のせいで逃げなくちゃいけないなんて、おかしい。

 あ、でもあの約束は悪いことの一種なのかな……?

 そんなことを考えながら、神社の参道を抜けきり鳥居をくぐったとたん、左右からぐおおっととてつもない声をあげながら、一組の男女が現れた。

「うっそ……!」
 薄闇から現れて、捕まえるうぅぅと呻く姿はたまらなく恐ろしい。
 手を伸ばしてきたその間隙をぬって逃げるものの、男性の方の足が速くて徐々に距離が縮まっていることが、その声の距離から分かった。

「もう、何なの!」
 まるで対ゾンビのアクション映画みたいだ。
 でも、操られている男性は、ゾンビよりも遙かに足が速い。

 わたしも足に関しては自信があったのに、その男性は、スタミナというリミッターを完全無視したような走り方なので、敵うべくもない。
 自分をだましだまし、走っていたけれど、とうとう男性の声が背後に迫ってきて、戦慄した。
 肩越しに振り返ると、完全にあっちの方向に言ってしまったような顔の男性が、ゆらあっと手を伸ばしてくる。

 やばい、捕まる、とほとんど絶望的に思った。
 その手が触れるかいなかのその刹那に、わたしは誰かに抱きすくめられ、物陰に連れだされた。

「え!?誰!?」
 新手の追っ手か知り合いか、と不安と期待が半々でそう言い、顔をあげる。
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