幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!
 わたしがそう口にしたとき、
『ふふっ、迷うことないよ。こっちが本当だもの』
 鈴を転がすような声がどこからともなく聞こえてくる。

「……お前がこの変な世界を作ったんだな」
 横堀君が空を仰ぎながら、どこへともなくそう声をかける。

『何を言っているの?この世界が本当。必要なものはみんな揃っているもの』
「逆だろ。都合の悪いことをみんな消しただけ。そんな風にして手に入れて嬉しいか?」

『わたしは、嬉しいよ。どうして嬉しくないの?きっとみんな思い通りにいくのに』
「……俺は、別に思い通りになんてしたくねーから。ちょっと雑なくらいの扱いが、一番らしくて好きだし」
 声に対して話しているはずなのに、横堀君の視線がなぜかこちらに向いている。

『……でも、わたしにはこれからが大事なの』
 鈴の音のように澄んだ声が少しずつ濁っていく。

「こんな大げさなことしねーで、ちゃんと話し――――」
『邪魔をしないでね?』

 声がそう言ったとたんに、目の前にいた横堀君の姿が消えた。
「え?」
『え?』

 思わず瞬きをした次の瞬間に、ぐわっとすごい力で引っぱられる感覚がして、わたしは薄ぼんやりとした光の中に投げ出された。
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