幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!
「こっ……」
 どうしよう。
 幸太郎なら、何て考えたせいで思わず口に出てしまったものの、まったく考えが浮かばない。

「こ?」

「こ――――」
 こうなったらもう、出任せでいくしかない。

「これから、裏の滝で水浴びするつもりだから、風呂になんか入ってるヒマはねーの!」
 わたしが言うと、辺りにしじまが広がった。

 それからぽそっと、
「裏に滝なんかあったっけ?」
 斉藤が口にすると、誠二が小さく低い声で、
「止めとけ」
 と言う。

 紀瀬は肩をすくめて、宗高はため息をつく。
 何だろう、この触れちゃいけません、相手にしちゃいけませんという雰囲気は。

「俺らは行ってくるから、お前は、ま……寝とけ?」
 そう言われて、手に持っていたタオルを誠二に引き抜かれ、頭にかぶせられる。

 そして、じゃあな、と言われて4人の背中を見送ることになった。
 どうも釈然としないけれど、これで、良かったんだよね?

 けれど、去っていく彼らが、
「コータローどうしたんだろうな?」
「熱中症熱中症ー」
「こんなんだっけ、熱中症って?てっきりとうとうアッチ側に行ったのかと思った」
「既に半分行ってるだろ」
 言いたい放題言っているのを聞くと、若干の罪悪感が湧く。

 わたしは、大切なものを失わずに済んだけれど、幸太郎は大切なものを失ったかもしれない……。
 ごめんね、幸太郎。
 と言っても、本当にそうやって声をかけることは出来ない。

 わたしの姿をしているはずの幸太郎は、今のところ、どこにも見当たらないからだ。
 幸太郎は、どこに行ってしまったんだろう――――?
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