幼なじみが犬になったら、モテ期がきたので抵抗します!

●重なる記憶

 何はともあれ、今日は午後の部活がないから、もう帰宅が出来る。
「ミサ、またねー」
「うん、練習頑張ってー」
 挨拶もそこそこに、まほりはさっさとカバンをまとめて、教室から出て行く。

 ラクロス部は、試合を控えているため、午後も部活があるらしい。
 まほりが早々に去っていってしまい、何だか、物足りないような、これで良かったような不思議な気分になる。
 そんな気分のまま、教科書類をカバンにつめてカバンを閉めると、左手の甲が視界に入った。

 少し血管のすける、程よく日焼けした手の甲。
 何か、足りない?
 いや、そんなことないかな。
 
 考え事に区切りをつけ、帰ろうと思い席を立つと、
「あ、待てよミサキ。今日、練習ないんだろ?帰ろうぜー」
 と斉藤と話していた幸太郎がそう言って、声をかけてくる。

「え、コータロー帰んの?今日、T高の練習にまぜてもらいに行こうって言ってただろ?」
「あーそれパス。俺、これから用事があるし」
「え?用事って何?帰るだけでしょ?」
 わたしがそう言うと、幸太郎は、ゲッという顔をする。

「帰るだけなら、少しだけでも行こうぜ。セージもムネももう行ってるらしいし、人数多い方が良いって言われてるしさ」
「いや、帰るだけっていえばそーだけどさ。色々とこまごまとしたことが……」

 むにゃむにゃと語尾が濁されて良く分からない。
「コーセーお前、空気読めなすぎー。そんなんだと、豆腐に蹴られて死ぬよ?」
 紀瀬が廊下側の席からそんなことを言ってくる。

「豆腐は蹴らねーだろ……」
「でも、用事がないなら、練習行ってくればいいと思うけど」
「ミサキちゃんも結構アレだね。それとも、俺とデートする?」
 支度を終えた紀瀬も、やって来てそんなことを言う。

「アレ?」
「何がそれともなんだよ……。とにかく、俺は帰んの。ミサキも帰んの。じゃーな」

 幸太郎はわたしの手を取り、
「え、コータロー!?」
 半ば強引に手を引っぱって、教室から連れ出した。
 紀瀬の茶化すような口笛を後ろに取り残しながら。
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