気ままな若社長は契約上の妻を愛し尽くす。【極上偽装関係シリーズ１】

第１章 利害が一致したので、結婚します

　春にしては暑い日の昼下がり。

　しとしとと窓の外で降り注ぐ雨を見つめつつ、成瀬(なるせ)　唯奈(ゆいな)は数日後のことを考える。

　先ほどまで晴れていたはずなのに、空はすっかりと雨模様だ。まるで、自分の心の中のようだと、唯奈は思う。

（……あー、どうしよう）

　目の前にあるアイスコーヒーを口に運びつつ、唯奈は心の中でそう呟いた。

　今、このカフェには唯奈のほかには大学生らしき女性しかいない。彼女はレポートでも作っているのか、必死にパソコンと格闘している。だから、唯奈が何を考えているかなど、想像もしないだろう。

「……ほんと、どうしよう」

　アイスコーヒーをストローで回せば、氷同士がぶつかるような音が聞こえる。

　いっそ、この氷のように溶けてしまえれば。

　そんな無駄な想像をしたものの、そんなことよりも今は大切なことがある。

　そう、数日後に迫った祖父母との対面だ。

（本当、最悪のタイミングだ）

　唯奈には両親がいない。幼少期に交通事故で亡くなった。

　唯奈と四つ年下の弟は、それ以来父方の祖父母に育ててもらった。周囲は両親がいない唯奈と弟のことを「可哀想」と言ったが、唯奈からすればそうでもない。

　祖父母はとても優しく、厳しく。必死に育ててくれたためだ。

　だから、唯奈は祖父母に心配なんてかけたくなかった。