クラスで人気者の幼なじみと『離婚』前提の偽装婚約~この関係はフリだから、ふたりの時に溺愛なんて不要では!?~
第2話 デートに誘われました


○桜井家、二階の成美の部屋(下校直後)



学校から帰ったばかりの戒理と成美。

成美の部屋へ入ったところで、成美は戒理にドアドンされている。



戒理「成美、今日の冷たい態度って、どうなの?」

成美「ぇ、どうなのって……?」



成美(ち、近い……っ)



イケメンのアップは妙な色気がありすぎて成美の心臓がバクバク悲鳴をあげた。



戒理「頬にキスしようとしただけで全力で拒否しただろ」

成美「だ、だってそんなの、みんなの前でする事じゃないし……」



オロオロして頬を少し染めながら答える成美を見て、一瞬目を見開いた戒理だったが、すぐに悪戯っぽい笑みを浮かべた。



戒理「それってふたりきりなら、してもいいって聞こえるけど?」

成美「ち、違ッ……」



顔を真っ赤にして少し涙目で動揺する成美。



戒理(可愛い……)



ぷるぷる震える仔犬の耳が成美についているように見えて、戒理の頭にトスッとハートの矢が刺さる。

耳まで熱くなり赤くなったであろう自分の顔を成美に見せたくなくて、戒理は成美の首元に顔をうずめるようにして囁く。



戒理「とりあえず今日の反省会、するぞ」

成美「き、今日の反省って学校での事……?」



成美(戒理の息、くすぐったい……ッ)



首のすぐそばで戒理に囁かれそのくすぐったさに、ぎゅッと目を瞑りながら成美は学校での出来事を思い出していた。





〇(回想)天王寺学園高等部3年生の教室(休み時間、第一話ラストの続き)



戒理は自分の膝の上に座る成美の事をギュッと抱きしめている。



戒理「今朝、成美にプロポーズしたんだ」



ニコ、と戒理が甘く微笑むと、えええー!!!と教室中で絶叫が響き渡った。

特に女子は、嘘でしょ、と泣いている子もいる。

友人のりあは目をキラキラ輝かせ、柚乃はキランと光る眼鏡の位置を指で直しながらもう一方の手の親指を立てグッジョブの仕草。



女生徒1「戒理は彼女なんて作らないと思ってた」

女生徒2「いつから付き合ってたの!?」



クラスメイトからの質問に、戒理と成美が顔を見合わせる。



成美(ど、どうしよう……他の人と戒理が自由に恋愛するための結婚だなんて言えないし……)



成美が困っていると教室のドアの方で、キャァァアッ、と黄色い歓声が上がった。

女生徒に囲まれながら現れたのは、ふんわりとした明るい髪色で甘い雰囲気の目鼻立ちをした弥勒座統哉(みろくざとうや)。

同じイケメンだけれど少し冷たそうな印象を与える戒理と違い、チャラさを感じさせる統哉は女の子が大好き。



統哉「どうしたの、隣のクラスまで悲鳴が聞こえたけど」

女生徒3「ぁ、統哉くぅん、あのねぇ」



統哉が質問すると女生徒が何人か統哉にベタベタしながら、戒理が成美にプロポーズした旨を説明した。



統哉「へぇ、戒理がねぇ……」



戒理に向ける統哉の視線は、どこか冷たさを感じさせた。

戒理は統哉の視線から成美を隠すような感じで立っている。

挑発するような感じの笑みを統哉が戒理へ向けた。



統哉「それってさぁイメージ戦略なんじゃないの。桜井さんって戒理の幼なじみなんでしょ。ずっと一途に恋してましたなんてマッチング婚より印象いいじゃない? 僕たちみたいにモデルとかやってると、そういうの大事だから」



統哉の指摘に周りにいた生徒たちがザワザワ騒ぎ始めた。



生徒1「あり得るかも」

生徒2「仕事のために結婚するってこと?」

生徒3「今までふたりに噂とかなかったよね」

生徒4「偽装結婚?」

生徒5「それって法律違反じゃない?」



はぁ、と戒理が大きくため息をついてから統哉に向かって話し始めた。



戒理「俺が成美の事をずっと好きだったのはホントだよ。この結婚はイメージ戦略なんかじゃない」

統哉「戒理はモデル仲間からも告られたりしてるじゃん、どうしてこの子なの?」

戒理「俺、小さい頃は苛められてたんだけど成美が庇ってくれたんだよ、好きになったのはそれがキッカケ」



ハ、と統哉が鼻で笑う。



統哉「それこそイメージアップにつながりそうな美談だね。それだけじゃ本気でふたりが結婚を前提に付き合ってるのかなんて分からないよ」

生徒6「なぁなぁ、本当に好きで付き合ってるならキスぐらいしてみせろよ」



「キース、キース!」、と周りの生徒たちが囃し立て始めた。

りあと柚乃は心配そうな表情をしている。

戒理の背中に隠れるようにして立っている成美の顔は青褪めていた。



成美(キキキキスなんて、したこと無いのに……)



はぁ、と戒理はため息をつくと、成美の頬に指でチョンと触れた。



戒理「口にするのは見せるのもったいねぇから、ここでいいだろ?」

成美「ふぇ!?」



周囲の女子生徒からは悲鳴が、男子からは歓声が上がった。

成美は目を大きく見開いている。

戒理が成美の頬へ顔を寄せていくと、ムグ、と両手で塞ぐようにして成美が戒理の口を覆った。



成美「や、やだよ、恥ずかしいから!」



顔を真っ赤にして成美が言った直後、先生が教室へ入ってきた。



先生「休み時間終わるぞー、席につけー」



成美(た、助かった……。戒理にキスされるなんて、ドキドキしすぎて心臓がもたないよ……)



成美はホッと安堵の息を吐いている。

自分の気持ちでいっぱいいっぱいの成美は、キスを拒否されて傷ついた表情になっている戒理の様子に気付かない。





(回想終了)



○桜井家、二階の成美の部屋(冒頭、回想前の続き)



成美はベッドに浅く腰をかけて、戒理はベッドの側面を背もたれにするような感じで床に座っていた。

人ひとり分の隙間は空いているけれど、並んで座っている戒理と成美。

戒理は片方の膝を山の形に立て、その膝に肘を置き頬杖をつきながら成美の顔を見上げている。



戒理「今日の俺たちを見て、結婚を前提に付き合ってると皆が納得したと思うか?」

成美「ぉ、思わない、です……」



成美は両膝の上に拳をのせ、叱られている仔犬のようにビクビクしている。



戒理「まわりに俺たちが両想いで婚約してるって信じ込ませないと。偽装結婚だと思われたら面倒な事になる」

成美「確かにそうだけど信じ込ませるって、どうやって……?」

戒理「イチャイチャしてるのを見せつければいいんじゃねぇの?」

成美「イチャイチャ?」

戒理「ほら、もっとこっち来いよ」



戒理は成美の腕を掴むと、グィっ、と自分の方へ引き寄せた。

ひゃ、と声を上げながら、成美は座っていたベッドからずり落ち戒理の膝の上に座ってしまう。

戒理の腕に包まれ、抱きしめられて座っているような感じに。



戒理「成美が原作書いてる漫画の登場人物はこういう事してるだろ?」



戒理はキスをする直前のように成美の顎へ指を添えると、クイッと顔を上向きにさせた。

成美は驚きで目を大きく見開いている。



成美「こ、こういう事って、戒理は何しようとしてるの……?」

戒理「イチャイチャ?」

成美「で、でも今はふたりきりだし、誰も見てないよ……」



成美の顎に添えた手から伸ばした親指で、戒理が成美の唇へ触れる。

ビク、と成美の肩が震えた。



戒理「普段から慣れとかねぇと、イチャイチャしてるのを見せつける時ガチガチに緊張してたら疑われるだろ」

成美「いきなりこんなに距離が近いの、無理。現実ではイチャイチャなんてしたことないもの……」

戒理「俺とが初めて?」

成美「うん、戒理が初めて……」



自分の腕の中で涙目になりながら見つめてくる成美の姿に、戒理は心臓を『戒理が初めて』と書かれた矢でトスッと打ち抜かれた。

成美が可愛くて内心悶えている戒理を見て、「?」と成美は不思議顔。

戒理は自分の口に拳を近付け、コホ、と小さく咳払いをすると平静を装って紳士的な笑みを成美へ向けた。



戒理「成美、明日の土曜って何か用事ある?」

成美「ぇ、無いけど……」

戒理「待ち合わせして遊園地に行こう、たくさんデートすればそのうち慣れるだろ」

成美「ぇぇぇ……!?」



戒理の提案に、成美は驚きを隠せない。



成美(戒理と、デート!?)




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