『絶食男子、解禁』
想いの領域

「えっ、何これ……ガチなやつじゃん」
「色々考えたんだけど、ありきたりなものじゃ面白くないかなぁ~とか思って」

十月中旬、淡く滲むような陽ざしの土曜日。
来月初めに俺の誕生日が来ることもあって、鮎川が前倒しで『バースデーデートをしよう!』と企画してくれたまではいいんだけど。

上野駅で待ち合わせをして、電車で訪れたのは羽田空港第一ターミナル五階。
普段から仕事で空港利用しているから、出発ロビーと到着ロビーのショップ名は何となく記憶している。
だから、空港内のショップを廻るデートかと思ったら……。
カチッと制服を身に纏ったスタッフ?らしき人に案内され、事前説明を受けている。

あれよあれという間に、何故か爽やかスマイルの男性に誘導され、操縦席に座らされた。
左側の席は機長の操縦席らしい。

今日は操縦士を体験できるというフライトシミュレーターのA320という機種で、羽田空港から新千歳空港までのフライトを疑似体験する内容らしい。

鮎川は三年前から会員になっているらしく、これまで十五回も利用しているという。
メンバーになるとフリープランが組めるらしくて、数日前に俺の分もしっかり会員登録を済ませておいたという念の入れよう。

実機に乗るわけじゃないんだし、『ゲーム感覚で楽しめばいいから』と言われても。
実際視界を埋め尽くす計器の多さに眩暈がしてくる。

「それでは、エンジン始動に伴う確認業務をして始めましょうか」

アドバイザーと言われるスタッフの声にビクッと肩が震えた。

< 113 / 157 >

この作品をシェア

pagetop