『絶食男子、解禁』

「局アナに就職後は、暫く恋愛は御法度だと事前に通告を受けたらしく、入社前に身辺整理をしておくようにって」
「だからって、自分の彼女を他の奴に差し向けるとか、意味不明だろ」
「うん。……でも、私のことは本気で好きだったらしく、就職を理由に別れたとして、その後に他の男に取られないようにするためだとか、私が彼以外を好きにならないようにするためだとか。……要するに、私が二度と誰も好きにならないようにするために、恐怖を植え付けるようにわざと他の男にあてがったって」
「はぁぁあ?鬼畜すぎんだろ。自己中の極みっつーか、人としての倫理が欠如してるよ」
「私は彼の思うつぼで…。男性不振になったし、恋する以前に人との付き合いもできるだけ避けて、自分磨きに専念するようになったってのに」
「鮎川…」

彼女の瞳から涙が零れ落ちた。
通りすがる人々の視線から避けるために、鮎川をそっと抱き寄せる。

「……ファンデ付くよ」
「いいよ、別に」
「……ごめんね」

自問自答して『奴とやり直す』という選択肢もあるかもしれない、と思ったことすら後悔する。
やっぱり、俺の直感は正しかった。
あいつは相当危険な男だ。

好きな女に生涯消えないような傷をつけてまで、自分のものにしたいと思う独占欲。
異常なほど歪んだ愛情なのかもしれないが、彼女の気持ちは奴の中には一切存在していない。
今も、昔も。

「…それにね」
「ん」

ゆっくりと顔を上げた鮎川と視線が交わる。
長い睫毛がしっとりと濡れ、口元が僅かに震えている。

「付き合ってる時にね、彼とキックボクシングを習いに行ったの」
「……ん」
「当時は痴漢対策って言われて、護身用にと思って一緒に通ったけど」
「…ん」
「他の男の人にあてがっても、私がその人を撃退するためだったらしくて」
「はぁ?」
「だから、そういうことも全て、彼の計画内にあったってこと」

< 76 / 157 >

この作品をシェア

pagetop