未来を失った君と、過去を失った私。

女【side夏】

はぁ…。
最近イラつくことばっか。
飯は不味いし、病人が一斉に清掃する"掃除の時間"もダルすぎてやってらんねー。
病人に掃除とかやらせてんじゃねーよ、と思うけど、心を綺麗にするためと運動不足解消のための取り組みらしい。
心を綺麗なんて出来る訳ねぇよ。
運動不足解消は、隣のジムにでも行け。
さらにだるいのは、突然隼人がグループに招待してきた、『七瀬花鶏』とかいう女。
なんだこいつ…。
急に入って来やがって、ふざけんなよ…。
内心イライラを隠せずにいると、ピコンッと通知音が鳴った。
ちっ…。
んだよ、めんどくせぇ…。
だけど親からの連絡は無視するとさらにめんどくさいことになるから仕方なくスマホを見る。
『今日の午後2時、中庭集合!全員強制参加』
…。
はぁぁぁぁ!?
俺の時間を返せ!
どーしよ、既読つけちまった…。
帳なんかはりょーかいのスタンプを押していて、朝日はグッとボタンを押していた。
俺は基本既読スルー。
今回も既読スルーで流した。

コンコン。
ドアが突然ノックされた。
「はい?」
現れたのは…。
「こんにちは〜」
「っ、母さん…!」
「スイカ持ってきたわよ〜」
キャピキャピした様子の母さん。
はぁ…。
母さん…ビビらせんなよな…。
タッパーに入っている大量のスイカ。
「ありがと」
タッパーを受け取る。
「じゃあ、お母さん仕事あるから行くわね」
「ん」
スイカはご丁寧に種まで取ってあって、ご苦労なもんで、と思いながらスイカを口に入れる。
「ん…」
うま…!
スイカの甘い味が広がって…。
ごくりと水分を飲み込んだ。
タッパーの蓋を閉め、冷蔵庫に突っ込む。
そのままスマホをいじり始めた。

…っ。
やば…。
もう11時か…。
うーん…と伸びをする。
食堂に行きたくなくて、ナースコールを押す。
ブーッ。
「はい、どうされました?」
営業スマイルを浮かべた看護師が部屋に入ってくる。
「昼飯…部屋で、食べます」
「わかりました〜」
そう言い残し、看護師は出て行った。
はぁ…。
ゾワゾワッと鳥肌がたつのがわかる。
俺は、女が無理。
いわゆる、女子恐怖症。
あるきっかけのせいで、女が駄目になった。
母親と姉は大丈夫なのに、クラスメイトはもうNG。
隼人も女は好きじゃないグループだったはずなのに…なんで?
世間一般的に言うと、この気持ちは多分嫉妬。
隼人は克服(?)できたのに、俺は出来ない。
そんな現実がいやで、ぎゅっと唇を噛む。
あと、2時間半。
…っ。
嫌だ。
女に会う。
それだけで拒絶反応は起こるんだと今更ながらに自覚した。
拳がプルプルと震えている。
情けねぇ…っ。

12時ちょうどに昼食が運ばれてきて、無理やり胃袋に食事を入れる。
ごくりとコロッケを飲み込んだ時。
ブーッとスマホが震えた。
ん?
確認すると、隼人からメッセージがきていた。
もしかしたら、今日駄目になったとかかもしれない…!
慌ててメッセージを開く。
『夏ー?大丈夫かー?花鶏はいい子だから会ってみて!』
花鶏…?
キラキラネームじゃねぇか。
しかも読めねえ…。
次に送られてきたメッセージに、俺は目を見開いた。
『つか、惚れんなよ!俺の彼女だし』
か…か…か…。
彼女ぉぉぉぉぉ!?!?
目玉が飛び出るんじゃないかぐらい。
あの、隼人が…?
その女も女だ。
余命宣告されている奴を、どうして好きになれるんだ。
理解が出来ない…。
顔をしかめながら、舌打ちをする。
返信はしなかったけど…これで、行かないことには出来なくなってしまった。
はぁ…。
本日何度目かのため息をつきながら、俺は憂鬱な気分でスマホの電源を落とした。
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