未来を失った君と、過去を失った私。

ヒートアップ

はぁっ、はぁ…。
病院内は走ってはいけない決まりだけど、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
息を切らせて走っていると、やっとD室が見えてきた。
「あ、花鶏ちゃん」
朝日さんがベンチに座っている。
うっ…お、怒られる…。
「とりあえず、座ろっか?」
そう言ってベンチを指し示す朝日さん。
大人しく隣に座ると、朝日さんは口を開いた。
「それで…隼人が倒れたときのこと、教えてくれる?」
「…はい」
D室の扉を見つめながら、私は口を開く。
「…私を、病室まで送ってくれるはずだったんです。隼人は。それで…急に、倒れて…」
「場所は?」
「…わかりません…」
「そっか」
ぽんぽんと頭を撫でられる感触にびくりと肩を震わせる。
「隼人が倒れたのは花鶏ちゃんのせいじゃないよ。アイツは倒れてそのままってほどヤワじゃないしね」
そう言って微笑む朝日さん。
でもそのフォローが今は気休めにしか聞こえず、曖昧な笑みを返す。
するとそこに。
「っ、おい!」
「隼人っ!?」
帷さんと夏さんが現れた。
「朝日…さっきのLINE、どーゆーことだ」
ギロリと朝日さんを睨みつける夏さん。
「どーゆーことって…夏はそこまで鈍感じゃないでしょ?」
朝日さんは私を庇うように前に立つと、夏さんを睨み返す。
「…この女が、関係してるんだろ」
「は?花鶏ちゃんは関係な…」
「関係あるに決まってんだろ!じゃあなんでここにいるんだよ!?それにこんな時期に隼人の彼女になったのもおかしい!アイツはそんな奴じゃなかったのに…全部お前のせいだ!!」
っ…。
私の、せい…。
私が傷つく権利はないのに、ズキリと痛む心。
「それは全部お前の妄想だ!花鶏ちゃんが何をしたって言うんだ!証拠はあるのか!?」
「2人ともやめろ。隼人の前で…可哀想だろ」
ヒートアップしてきた2人をいさめたのは帷さん。
「花鶏ちゃん、大丈___」
「っぅ…」
帷さんが私の顔を覗き込んだ時にはもう遅くて。
私の目からは、雫が伝っていた。
「っ、花鶏ちゃ…」
「ごめんなさい…!」
ダメだ…ここにいたら、帷さん達に迷惑が…。
早く、行かなきゃ…!
涙を拭いながら、急いでD室の前から走って逃げた。
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