まるごと大好き!
 でも、現実はそんなに優しくない。
 大学に入れば、留学すれば、今よりもっと勉強しないといけなくなるし、昂志のことを考える時間は絶対に減る。
 それだけじゃない。留学が終わっても、医者になったらもっと忙しくなる。最終的には世界中を駆けめぐって、たくさんの人たちを救いにいきたいと思ってる。

「昂志にはね、自由でいてほしいんだよ」

 昂志は優しいから、私への気持ちが消えて別の人を好きになったら、罪悪感で苦しむだろう。
 そんなことには、絶対にさせたくない。
 だから、昂志は私のことが好きなわけじゃないって……そう思うようにした。
 昂志は無邪気で大らかで、人との距離が近いからあんなことを誰にでもやってるんだって。
 私なんかが、特別なはずない。

「静波ちゃん、本気で木城くんが好きなんだね」

 かなえの表情が、少しだけお母さんみたいになった。包みこむような声で言われると、肩に顔をうずめて泣きたくなってしまう。

「うん、だから……私たちはこのままがいいの」
「そっか」

 きっと今の関係が一番だ。
 誰も傷つかないし、悲しまない。
 私はそう信じてる。
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