※彼の姉ではありません

 幌延さんは「わかりました」と快く承諾してくれた。こちらを気遣うように、穏やかな微笑みさえ浮かべている。


「連絡先は交換しておきましょう、明日の……今くらいの時間にメールを送るというのは?」

「そうですね、明日の9時半には決めて、メールを送ります」


 ここで私はふと疑問がわいた。もしも私がこの提案を受けいれて、幌延さんがやっぱり止めようと言いだしたら? 逆に私が無理だと考えて、幌延さんがどうしてもお願いしたいと伝えてきたら?


「そのときにお互いの考えが違ってたらどうしましょう?」

「そのときはそのときで、また考えましょう」


 結局、一番それが無難だよなぁ……と私は了承し、連絡先を交換した。幌延純仁と画面に浮かぶ名前を、そっと触ってみる。

 これが合コンとか商談とかだったら、舞いあがっていたのかもしれない。

 そのどちらでもなくて、お姉さんの替え玉を依頼されてる……。
 あまりにも、現実感が薄い。
 実はこれは夢で、目が覚めたらネットカフェの寝心地最悪のシートで丸まってました、というオチなのかも。


「お待たせいたしました、モーニングセットAのお客様!」


 悶々と悩みだした私の耳に、元気な声が飛びこんできた。
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