※彼の姉ではありません

 お父さんからの電話だった。
 
 ドミトリーから出て共有スペースまでくると、通話ボタンを押して耳にあてる。すぐにお父さんの声が聞こえてきた。


「有希子、おまえ大丈夫なのか?」

「え、どうしたの? いきなり」


 電話に出てすぐ聞こえてきたのが、私の安否確認だった。入社してからは数ヶ月に2、3分話せればいいほうだったし、前に連絡してから半年以上もたってるから電話してきたのかも。

 心労を増やして申し訳ない、と鼻の頭をかきながら口を開く。でも私がしゃべる前に、お父さんのだみ声が聞こえてきた。


「社長たちが夜逃げして、会社倒産したんだろ?」

「え、どうして知ってるの?」


 驚いたけどなんのことはない。ニュースで取りあげられていたのだと教えてくれた。


「まさかニュースになってるなんて……」

「そこそこ大きい会社だったから、そのせいじゃないか?」

「そうかもね……お父さん、明日から私、色々と手続きしなきゃいけなくなるんだ」

「そうか……まぁ、元気そうでよかったよ」


 お父さんは笑って、「今度はホワイト企業に勤めろよ」とわりかし本気の声で忠告してきた。


「身体がおかしくなってからじゃ遅いんだからな」

「そうだね、慎重に探すわ」


 そこはお父さんに同意して、私は気になってることを聞いてみることにした。
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