※彼の姉ではありません


 お父さんは心配そうに、「おばあちゃんも気にかけてるからな」と伝えてくれた。


「そうだね、落ちついたらまた連絡するよ」


 私は「おやすみ」と言ってから電話を切った。
 そのまま幌延さんの連絡先を表示する。

 ……さすがに今の時間にメールするのは無しかな……。

 幌延さんの気が変わりませんように、と祈りながらドミトリーへと戻った。

 音を立てないように、そっと上段のベットに潜りこんだ。引き戸を閉めて鍵をかけ、真っ白な枕に頭を乗せる。ネットカフェよりもふかふかなお布団に、目蓋はすぐに重くなった。

 うなぎの寝床みたいなドミトリーは狭くて、棺おけの中ってこんな感じなのかなぁと不謹慎な感想が浮かぶ。明日も早いんだから、今夜もさっさと寝ないといけないのに。

 今後の不安をうち消すように、いささか乱暴に寝返りをうった。意識して深呼吸をくり返すと、身体が泥のようになっていく気がした。


 その夜、私は夢を見た。


 私は鏡の前に座ってる。だけど映るのは私じゃなくて幌延亜純さんだ。私は声すら出せずにただ彼女を見つめてる。

 亜純さんが口を開いた。なにかを私に伝えようとしてる。でもパクパクと開いたり閉じたりしているのがわかるだけで、なにを伝えようとしてるのかわからない。

 必死な形相の彼女に、私の気持ちもあせる。

 ──幌延亜純さん、あなたは今どこにいるの?
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