唇から始まる、恋の予感
「いろいろと重なってなってしまったのね。いいのよ無理に言わないで」
「……」
「誰か悩みを話せる人はいる?」

首を振って答えた。

「話をするのが好きじゃない人もいるし、無理に誰かに話したりしなくてもいいわ。現代って人と関わるのが好きじゃない人が増えているし、プライベートなことを話すのも好きじゃない人もいる。だけどね、何か発散する方法を見つけたらいいと思うの。映画を観てもいいし、ショッピングをしてもいいわね。規則正しい生活を送るのも大切だけど、たまには羽目を外してみたらいいわ」

確かに言う通りかもしれない。私はある目標の為に節約をしている。映画も無料で配信される動画かテレビで放送される時にしか観ない。ショッピングはメイク用品がなくなったら買うけど、プチプラだし、洋服は安いサイトで買っている。お給料が出た時くらい、自分にご褒美をしてもいいと思うのに、贅沢だと思ってしまいそれもできない。
いったい私は、何が楽しみで生きているのだろうか。

「たまには自分を解放してあげても罰は当たらないわよ?」

先生は軽くウインクした。
先生と話すことで、落ち着きを取り戻したときには、すでに夕方になっていた。早退したはずなのに、退勤がいつもと変わらないのが笑ってしまう。

「白石さん、これを常備するといいわ」

先生が手渡してくれたのは、ビニール袋だった。私の発作が激しく出ていたとき、母親がいつも持たせてくれていた。本当に忘れるくらい症状がでていなかったから、携帯することも忘れていた。

< 15 / 135 >

この作品をシェア

pagetop