唇から始まる、恋の予感
海外転勤を打診された時、俺は子供のように駄々をこねて拒んだ。彼女、白石智花と離れたくなかったからだ。
それでも、しがないサラリーマンはそんなことは許されず、アメリカへ転勤となった。
そこで俺は条件を付けた。

「白石智花を異動させないこと」

公務員じゃあるまいし、課の在籍年数で異動するわけじゃないが、入社して3年が経つと、希望する部署へ異動の希望を出せることになっていた。
もし彼女が異動願いを出したとして、なんだかんだと理屈をつけて、異動を阻止出来るのは五代だけだと思っていた。

「自分だけさっさと秘書を彼女にしやがって」
「お前がのんびりしすぎだからだ。何か訳でもあるのか? それとも臆病なだけか?」

白石智花は特別だった。
周りとも関わらないし、笑うこともなく、同僚たちと話をしているところを見かけたこともない。
最初はいじめにあっているんじゃないかと気がかりだったが、そうではなかった。
白石の方が、交わることを拒んでいるようだった。
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