唇から始まる、恋の予感
「……!」
「どうしても話したいことがあるんだ」
「今からですか?」
「お腹がすいただろう?軽く買ってあるんだ、一緒に食べよう」

部長はコンビニで何か買ってきたようで、レジ袋を上げた。

「今日じゃないとだめでしょうか?」
「来て」

私の言葉を聞かず半ば強引にリフレッシュコーナーに連れて行かれた。

「おにぎりとお茶だけど、いいかな」
「あの、お話って」
「ソファでいいかな、座って」

私の話を聞いてくれない。いったん座って聞いてしまった方が帰りが早いかもしれない。

「どっちがいい?」

部長が差し出したのは、しゃけとたらこのおにぎりだった。のどから手がでるほど欲しくて食べたかったけど、あのときの言葉が蘇る。

『たらこがたらこを食べてるみたい。みっともないくちびる』

「あの、結構です」
「遠慮しなくていいんだけど」

遠慮じゃなくて、食べられない事情が私にはあるの。お願い、これ以上すすめないでほしい。お願い、胸が苦しくなってくるから。

「あの、お話を先に」
「これからも、こうして食事をしたり、お茶でもいい、一緒に話をしたいんだ」
「……」

唐突すぎて何を言われているのか理解できない。いつも下を向いている私だけど、うっかり顔をあげてしまった。

「久しぶりにちゃんと顔が見られたな」

私は慌てた。綺麗な容姿の部長の目に醜い私が映っていると思うだけで、呼吸が苦しくなり始めた。

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