唇から始まる、恋の予感

恋の予感

午後の眠くなる時間。隣の川崎さんは昨日夜更かしでもしたのか、それとも今読んでいる資料がつまらないのか、あくびを嚙み殺し、動きが止まる瞬間がたまにあった。

(コーヒーでも入れようかしら)

ここのところ会議や研修が多くて、会議室の確保や、会議参加者のお茶やお菓子の準備と何かと忙しい。残業は一時間足らずだけど、仕事の量が多くて、優先順位をつけるのも難しい。
給湯室の前で、部長が社長秘書の水越さんと立ち話をしていた。

(お似合いね)

部長も身長が高い方だけど、水越さんもスラリと身長が高く、とてもすてきな女性だ。
美人で、経営者の中でもイケメンと名高い社長と並んでも引けを取らない美しさ。
社長だけじゃなく、部長並んでもとてもお似合いだ。

(楽しそうに話しちゃって)

今、私はどういった感情でそう思ったの?
私みたいな女がそんなことを思うだけおこがましい。

「お疲れさまです、ごめんなさい、給湯室の前をふさいじゃって」
「いいえ……お疲れ様です」

挨拶でさえ先に言えない私。うつむいていて挨拶をする私は、さぞかし感じが悪く捉えられているだろう。
そそくさと給湯室に入り、川崎さんと自分のコーヒーの準備をする。
コーヒーを入れていると、部長が私の横に立った。

「コーヒーならついでにいれてくれないかな」
「はい、畏まりました」
「誰のカップ?」

二つ並べてコーヒーを入れていたから気になったのだろう。川崎さんのカップに指をさして聞いてきた。



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