ファーストクラスの恋 ~砂漠の王子さまは突然現れる~
突然の再会
無事に帰国し、私はすぐに日常生活に戻った。
そして、三石商事との約束は帰国から5日後。
仕事で付き合いのあった部長さんに気に入ってもらい、転職のために役員面接を受けることになっていた。
履歴書と職務経歴書を事前に提出し、「簡単な顔合わせだけだから」と言ってもらって、ほぼ採用は決まっているような流れ。
さすがに正式に採用決定になるまで安心はできないけれど、自分にはもったいないほどの大手だからダメもとくらいの気持ちでいた。
まあ今の会社も有休消化中だし、そんなに急ぐ必要もない。
今回の中東旅行で少しだけ世界を見て、自分の中で物の価値観が変わってきたように感じているし、別に日本国内にこだわる必要はないのかななんて思うようにもなった。
きっとそれは、ハサンに出会ったことが影響しているのだろうと思う。

「それにしても、素敵な人だったな」

異国の地と空の上で半日以上の時間を共にしたくせに写真1枚撮らずに過ごしたから、思い出は何も残ってはいない。
ただ、私の記憶の中にはハサンのことが鮮明に焼き付いている。
深緑色の瞳と、整った顔。
日本人ともアラブ人とも違うミステリアスな雰囲気。
穏やかな口調と、礼儀正しく優しい態度。
本当に王子様のような人だった。
たった数時間の間であっても、彼と共に過ごせたことが私には幸せだった。
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